内容紹介
ラグビー日本代表を勝利に導く名将の哲学。ラグビーワールドカップで敗北を繰り返すなど、弱かったラグビー日本代表は、なぜ世界の強豪国にも勝てるようになったのか。オーストラリア代表コーチとしてチームをワールドカップ準優勝に導いた世界的名将が組織と個人を育てるための哲学を語り尽くす!
昨年イングランドで行われたラグビーワールドカップでは日本の大活躍に感動させられましたが、本書はその大会前にエディー・ジョーンズヘッド・コーチに10時間以上にも及ぶインタビューをしてまとめられています。
なぜ、ラグビー代表は、世界の強豪と互角に戦えるまでに力をつけることができたのか。その秘密が思う存分語られています。
練習には科学的な裏付けが必要
私はワールドカップ前に、ラグビー日本代表の特集番組をたまたま見たのですが、その練習量に驚かされ、選手がその練習に長い期間付いてくるモチベーションをどう維持しているのか不思議に思っていました。それほどキツイ練習に見えたのです。
だから、ワードルカップでの躍進には本当に驚きましたし、その指導法には大変興味を持っていました。
エディー氏は練習に対して、このように語っています。
1週間にどれくらい練習した方がいいのか、そうした計画は科学的な裏付けに基づいていなければなりません。
とにかく根性で頑張って、より練習すれば何とかなるという日本特有の「ガンバリズム」という精神論が入りこむ余地はありません。
例えば、ダグビーはグランドに倒れたままプレイする事がありますが、選手にはGPSが付いているので、その寝ている時間を数値化して、最も数値が悪かった選手は翌日の練習でピンクのビブスを着て練習をさせるそうです。
このようにとにかく数字、スタッツを分析します。そして選手ごとに必要な練習メニューを組み、到達点を決めます。世界の強豪との力の差も細かく分析し、例えばその差は3%という数値で出します。そうすることで練習とはその差を正確に埋める作業だと分かります。
課題を解決するための時間は十分にあるのか?年間計画を見渡して判断しなければいけません。一ヶ月単位、一週間単位でどれくらいの練習が必要なのか見極めていきます。
自分が今何をしているのか、なんのために練習をしているのかが明確になっているから選手達は厳しい練習についてくるのだと分かりました。
コーチングはアートである
数字による分析はとても大切なことですが、これは十分条件ではなく、必要条件です。
海外サッカーでも試合での選手のスタッツはかなり細かくデータ化されているように、数字による分析はスポーツ界では当たり前。それすら適当に考えて練習をさせているなら、時代遅れもはなはだしいですね。
だから数字による分析は必要条件。その数字を使ってどうコーチングしていくのか。このコーチングの能力が加わって初めてチームや選手が強くなる十分条件となるわけです。
だから、エディー氏は「コーチングはアートである」と言っています。
分析結果から導き出した練習内容に対して、期待通りの反応を示す選手とそうでない選手がでてきますね。人間ですから。
そんなときにどうするか。ここでエディー氏は選手一人一人を観察し、どんなタイプの選手なのかを妥協せずに見極めます。
「その見極めにこそ「アート」が生まれる余地がある。」と言っています。コーチの仕事はいかにそれぞれの人間の能力を最大限に引き出すかだと。
ここで、アメリカの競馬調教師ウェイン・ルーカスの言葉が引用されます。
『どのサラブレッドにも速く走らせる方法はある。調教師の仕事は適した方法を見極めるだけだ。』
いい言葉ですね。
■さいごに
上で書いた内容はこの本で感銘を受けたことのほんの一部です。まだまだ大切なことがたくさん書かれています。それはスポーツだけではなく、ビジネスの世界でも成功のヒントになりそうなことばかりです。
そして特別付録として、巻末にエディー氏が影響を受けた本が紹介されています。
例えば、サッカー関係から『ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう』(マルティ・パラルナウ著)や一般書から『逆転!強敵や逆境に勝てる秘密(マルコム・グラッドウェル著)』など
そのラインナップはアメフト、バスケットボール、サッカー、テニスとラグビー以外のスポーツ関連の本が8冊、ビジネス書などの一般書が6冊、そして人生についての本が1冊です。
ここに紹介されている本からアイデアを得て、コーチングの現場に活かしているということで読まずにはいられません。何から読もうかな?