ウォーカロン。「単独歩行者」と呼ばれる人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。
ウォーカロンが人口の半分になった未来
森博嗣氏のWシリーズ2作目です。
ロボットからさらに発展したウォーカロンが人口の半分になっている未来の地球が舞台になっています。SF要素満載です。
ウォーカロンとは電子頭脳を持ち、人工細胞の肉体組織を持ったロボットで人間との区別がほとんでつきません。
さらに、そこで暮らす人間も「人工細胞により死ぬ者は限界まで少なくなった」というおめでたい設定なのですが、人工細胞が混ざったことで生殖能力が無くなるという問題が引き起こされています。
「死ぬことがないから、生まれなくても良いのか」というのは面白い考察だと思いますね。
もともと「死」というのは古来の人類が抱えていた欠陥であり、この問題を補うために子供を作ることができたと考えると、「なるほど」と感じます。
主人公はハギリという科学者
主人公の「ハギリ」は人間とウォーカロンを識別するシステムを研究している科学者です。
その立場から、人間と同一のものを製造するという究極の目的があるウォーカロンメーカーなど利権絡みの組織から追われます。
今作では、「人工生体技術に関するシンポジウム」に出席するため訪れたチベットで、会場となる国立病院内の施設が反乱軍により占拠されます。
全体に人類の存亡を予感させる不惑なムードがあるので、なんだか最近読んだ、ダン・ブラウンのインフェルノで逃げ惑う「ラングドン」と「ハギル」が頭のなかでかぶってしまいました。
ただ工学博士の著者らしい思考は健在で、ダンブラウンならハリウッド映画のように逃げ回る場面でも「もう一度確認をしておきたいんだけれど、脱出した方が良いのだろうか?」と緊迫した中に冷静な判断が入るところが面白いですね。
マガタ・シキ博士が登場。
Wシリーズもやはりマガタ・シキがキーマンになります。ウォーカロンの頭脳など、基盤となるプログラムはマガタ・シキによるものなので。
こうなってくると、森博嗣氏はS&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズ、Gシリーズなどを含めて、淡々と壮大なスケールで何かを書き上げようとしているのではないのかと期待してしまいます。
■さいごに
Wシリーズ1作目の「彼女は1人で歩くのか?」をすっ飛ばして読みましたが、著者特有の文体が作品の未来ビジョンをクールに演出していて、十分楽しめました。
「ウォーカロンと人間に違いはあるのか?」
「そもそも私達人間だって、誰かが書いたプログラムの中で動いているのではないのか?」
想像力がどんどん膨らんでいくテーマです。
次作以降の予定が既に2作品上がっているので、続きを読むのが楽しみです。