やめるを決める ~そして私は社長になった
この本は大塚製薬や大鵬薬品工業などからなる大塚グループの物流子会社である大塚倉庫の3年間にわたる改革の様子を当時営業本部長であった濱長一彦現社長が小説仕立てで書いています。
ページ数が約200ページ、しかも面白いのであっという間に読めますが、シンプルな中に本質が垣間見れ、私にとっては最高のビジネス書でした。
読んでいる最中に何度自分の事に置き換えて空想にふけったことか。目の前のモヤが晴れてモチベーションがガンガン上がる自分がいました。
内容紹介
大塚グループの創業者一族の一人である大塚太郎氏が大塚倉庫の新社長に就任したことから改革が始まります。大塚太郎氏は物流は素人なんですが、マーケティングではプロ中のプロです。
大塚氏が社長に就任した当時、大塚倉庫が扱っていたのは大塚グループの商品70%、残り30%が他者メーカーの商品つまり外販でした。この外販比率30%という数字は業界では優良です。
しかし外販は利益率が低く、なかには赤字の顧客もありました。営業は外販比率を高めるためにコストダウンを提示して運べるものは何でも引き受けてきたんですね。それは、「顧客はコストしか興味が無い」「物流業界は他社との差別化ができない」という思い込みによるものでした。
そんな状態の会社に業界素人の大塚社長は固定観念にとらわれない斬新な発想でやめることを決めていきます。
最初にやめるように著者の濱長営業本部長に伝えたことは「明日から1ヶ月間、一切の営業活動を禁止します!」 インパクトありますね。理由はもう何十年と進化していない営業スタイルをやめるために真剣に差別化を考えなさいということです。
そのあとも、「シナジーの無い顧客との取引中止」、シナジーとは複数の荷主が同じ倉庫に保管し、共同してトラックに載せて配送することです。それができていないところは営業が頭を下げて取った顧客をこちらから切りに行きます。「支店での営業をやめる」、これは「100円玉は拾うな1万円札を拾え」と命じても徹底されないことから、利益の薄い契約を結ぶことを完全のシャットアウトするためです。例外は許さない強い姿勢です。他にも次々と選択と集中のためにやめることを決めていきます。
「新」という字は「立っている木を斤で切り倒す」と書きます。切り株の切り口の鮮やかさ、これが「新」です。変わるためには何かをスッパリやめないといけないんですね。組織改革や個人レベルの変化を本気で望むなら、中途半端にやっても大きな変化は生まれないことが分かります。
大塚倉庫はバッサバッサと木を切り倒したことで、営業全体の意識は変わります。社長が「えなりかずきでは駄目、モックンになれ」と命じた通り、優等生ではない、市場で戦い勝ち続ける意思を明確にした知的な集団となりました。そしてついに「3年で外販比率50%」という目標を達成することになります。
この間、濱長営業本部長は大塚社長から次々に難題を突きつけられてきたわけですから、相当鍛えられています。それと同時進行してプレイベートを含めて面白い指示(アドバイス)が出されます。
「毎日外部の人と食事をしなさい」「客先へはドーナツ100個手土産を持っていきなさい」「年に6回講演会をしなさい」「何か賞を取りなさい」「月1回プレスリリースを出しなさい」「インパクトのあるホームページを作りなさい」
これらの指示に翻弄されながらも濱長営業本部長は誠実に実行していきます。結果的に大塚社長の経営センスを叩き込まれる形になり、営業本部長は副題の通り社長になります。
大塚社長は会社を再建しながら後継者も同時に育てあげたことになります。
その手腕は経営の神様のようです。読んでいる最中、私は大塚太郎社長のイメージはスラムダンクの安西先生でした。
読了後調べてビックリしました。なんと1974年生まれの40歳。私と一つしか変わらない。見た目も全然安西先生ではありませんでした。でも濱長本部長はイメージ通りでしたけどね。
■ さいごに
現在、濱長氏は社長、大塚氏は会長です。この本の出版も大塚会長から命じられた濱長社長への指令のように思えてなりません。
大塚倉庫はまだまだ改革を進め、売上を伸ばしていく気がします。この本の出版後大塚ホールディングス(株)の株価が上がっているのは偶然でしょうか。
読めばやる気が出てきます。どんな業界でもどんな立場の人でも参考になることが書かれています。とても読みやすく書かれていますので、本が苦手な方にもオススメです。