ペテロの葬列
内容紹介
『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ、待望の第3弾!
今多コンツェルン会長室直属のグループ広報室に勤める杉村三郎が主人公の現代ミステリー!
杉村はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。警察の突入そして突然の拳銃の暴発で犯人は死亡、
人質は全員無事に救出され、3時間ほどであっけなく事件は解決したかに見えたのだが―。
しかし、そこからが本当の謎の始まりだった! そのバスに乗り合わせた乗客・運転手のもとに、ある日、死んでしまった犯人から慰謝料が届く。
なぜすでに死んでしまった、しかも貧しいはずの老人から大金が届いたのか?
そしてそれを受け取った元人質たちにもさまざまな心の揺れが訪れる。警察に届けるべきなのか? それとも・・・?
事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!
果てしない闇、そして救いの物語!
感想
読みながら、これは間違いなくドラマ化されるなと思っていたら、もうすでにドラマ化されて、TVS系列で放送されてました。
普段民放のドラマをほとんど見ないので全く知りませんでした。ぜひ見たいです。
(ネタバレあり)
内容紹介にあるように、バスジャックから始まった不可解な事件にまたも杉村三郎は巻き込まれていくのですが、取り上げた題材が面白い。
その題材とはて「センシティビティ・トレーニング(ST)」です。
「センシティビティ・トレーニング(ST)」とは、日本が高度成長期にあった1960年から70年代半ばにかけてブームになった企業の新入社員研修や管理職教育のことです。
STはトレーナーの性格や指導法に偏りがあれば、怖ろしいことになるというシステムそのものに脆弱性を持っていました。実際、社命で来ている参加者はトレーナーに逆らうことができず、参加者が自殺する事故が起き始めます。
それからSTは社員教育には望ましくない危険なやり方だという情報が浸透し、急速に下火に。
しかしSTは消えても、STのスキルは残ります。そのスキルはマルチ商法や架空投資詐欺などの悪徳商法へと進化・変化していくわけです。
この本の中でバスジャックを起こした犯人は「センシティビティ・トレーニング(ST)」の元トレーナーであり、悪徳商法を行う詐偽組織の経営コンサルタントを行っていた人物でした。
そこに事件の闇が隠されていました。
私が大学卒業後、就職した企業には軍隊のような新入社員研修がありましたし、その後、管理職研修もたっぷりと受けました。
呆れるような内容もありましたが、今では笑い話にもなる懐かしい思い出です。
今の時代は都合の良い企業戦士を育成しようと、このような研修をしたら、SNSで拡散されてブラックだと炎上するかもしれませんね。
■さいごに
約700ページと長編ですが、宮部みゆき氏の筆力で話に引き込まれますので、後半はあっという間でした。
ただ、ラストで主人公が離婚する理由が妻の浮気というところで、思考が現実に戻されてしまいました。
宮部氏は続編の事を考えて、パワープレイに出たのでしょうか。それともこのシリーズを終わらせようとしたのでしょうか。個人的には続編に期待です。