バイバイ、ブラックバード
あらすじ
星野一彦は〈あのバス〉で連れていかれる事が決まっており、体型から態度まで何もかもが規格外の繭美に監視されていた。星野は五股をかけており、連れていかれる前に5人に別れ話をしに行きたいと頼んだ。幼少期に母親が出先で交通事故に遭って死んでしまい、待たされることの心細さを身を持って知っていたからだ。仕方なく繭美が仲間に確認すると「面白そうだから」と言う理由で許可が下り、繭美は仕方なく星野に付き添う事になった。だが星野は〈あのバス〉で連れていかれる事を相手に言いたくないと言い、代わりに繭美と結婚するからという理由で5人に別れ話をしに行く事になった。
バイバイ、ブラックバードは発売前に「ゆうびん小説」という企画で一話ずつファンに配信されました。「ゆうびん小説」とはフリーペーパー『LOVE書店!』に付いていた応募券で応募した人の中から抽選で50名限定で最終話を除く5話のうち1話が手元に届くという企画です。
抽選で当たった方はさぞ嬉しかったでしょうね。
太宰治の未完の小説『グッド・バイ』のオマージュ
この小説は太宰治の小説「グッド・バイ」のオマージュとして書かれました。
「グッド・バイ」は太宰治の自殺によって未完に終わっています。しかもかなり序盤で。続きが読みたかったと多くの方が思う残念な終わり方です。
「グッド・バイ」では主人公の田島が絶世の美女(永井キヌ子)を連れて、愛人たちのもとに別れ話をするために行くという話ですが、このコンセプトを引き継いています。
ただ、別れ話をするのに一緒に行く女性が絶世の美女とは真逆の女性。一言でどんな女性かと言えばマツコ・デラックスです。
おそらく、著者はマツコ・デラックスをモデルにして、繭美を描いたのでしょう。そのまんまです。
別れ話をしに行く女性たちに絶世の美女を連れて行くことで諦めさせるか、体重180kgの怪獣女を連れて行くことで諦めさせるかの違いです。
「あれも嘘だったわけね」
5股をかけていた女性たちのところに別れ話をしに行くと、必ずこの言葉から物語が始まります。
でも最低男の星野は、愛すべきキャラクター。怪獣女と結婚するからと別れ話を切り出しても、結局は誰からも憎まれません。
なぜなら、5股をかけていても、ただ他人をほっておけないだけで、そこに悪意は全くないから。
システムなんて存在しないちびっ子サッカーと同じです。ボールが転がった方を何も考えず追いかけるように女性と交際してしまうだけです。
しかも、幼いころの将来の夢が「パンになりたい」ですよ。パン屋じゃなくてパン!
これは憎めません。
結局バスでどこに連れていかれるのだろうか?
星野はバスでどこかに連れていかれる設定になっています。行き先は恐ろしい場所のようですが、それがどこなのか星野も繭美も知りません。
結局、行き先は分からないままなんですが、この感じ伊坂幸太郎のデビュー作「オーデュポンの祈り」と似ています。
「オーデュポンの祈り」では主人公の伊藤が荻島という見知らぬ島に連れてこられますが、理由は語られません。
自らの小説に伏線を張り巡らせる著者はひょっとすると、どこかで語られていない場面をつなぐのではないか。今後そんな小説を発表してくるのではないかと勘ぐってしまいます。
本当につながったらと期待せずにはいられません。
■さいごに
この小説のタイトルは1926年に発表されたジャズ「Bye Bye Blackbird」を元にしています。
Miles DavisのBye Bye Blackbird を聞くと、ちょっとのんびりした気分に浸れます。