【書籍】『残り全部バケーション』伊坂幸太郎著

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あらすじ
人生の〈小さな奇跡〉の物語。夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに──(第一章「残り全部バケーション」)他、五章構成の連作集。

伊坂幸太郎の小説には説明的な背景描写があまり無いので、書き出しから話に引き込まれていきます。

今回の書き出しは「実はお父さん、浮気をしていました」です。もう先が気になってしかたありません。

5章構成の連作長編小説

『残り全部バケーション』は裏稼業コンビ、「溝口」と「岡田」の物語で、5章構成の連作長編小説になっています。

ラスト2章は単行本化のために書かれていますが、前の3章は別々に依頼された短編として雑誌に掲載されて作品です。

過去の短編に伏線を張り巡らして、1冊の連作小説にする手法はPKと同じですね。

ただ今回は5年に渡って書かれた短編をまとめていますので、PKの時より壮大です。伊坂氏は一冊にまとめられるほど、短編が集まるかなと思っていたそうで、途中までは「登場人物の名前は揃えておこうかな、くらいの気持ちでしたね。」と語っています。

どうしても伏線を期待され、ただ短編作品を並べて発売するわけにはいかない人気作家も大変ですね。

話は映画のカットを積み重ねるように書かれています

第2章の『タオキン作戦』は2010年に書かれ、第3章の『検問』は2008年に書かれた作品です。第2章よりも第3章の方が2年も前に書かれています。

(よくこんな感じで1つの連作小説にまとめられるものだと感心しますが、)ですから、各章は時間軸にそって書かれていません。

しかも、それぞれの章の中でさえ、現在から過去へ場面が移り変わり、映画のカットを積み重ねるように書かれています。

この書き方は伊坂氏の小説のパターンですが、この作品ではより時間軸が目まぐるしく変わるので、いたるところでパズルのピースがはまっていく感じで面白いです。

■さいごに

溝口が毒島に対してしかけた命をかけた大勝負は、『最強のふたり』という映画を見ているときに思いついたそうです。最終章は『最強のふたり』ばりに盛り上がりました。

また、第4章との伏線「それに、毒島さん、実は、岡田とは長い付き合いだったんだ」「出会った時から数えれば、二十年近くでね」にもやられました。

ラストで高田に来たメールが焼き肉屋なのか、岡田からなのか気になる所ですが、もし岡田が生きているのなら、是非続編が読みたいところです。

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