内容紹介
新しい美を求め、時代を切り拓いた芸術家の人生が色鮮やかに蘇る。マチィス、ピカソ、ドガ、セザンヌ、モネら印象派たちの、葛藤と作品への真摯な姿を描いた四つの物語。
感想
フランスを代表する画家「アンリ・マティス」、「エドガー・ドガ」、「ポール・セザンヌ」、「クロード・モネ」、四人を取り上げた短編小説です。著者は学芸員の資格を持つ原田マハさん。その自伝的プロフィールを見ると、これまで歩んできた道のりは本人の言葉にはある通り「度胸と直感」に頼ったもので、なかなか愉快です。
物語の中には、ドガのエトワールやモネの睡蓮など各画家の代表作となる絵画が登場します。その絵画はどんな思いで書かれたのか、書いている最中にどんな苦悩があったのか、だれが関わっていたのか(それがまたピカソやゴッホなどだから面白い)といったことが、その時代にタイムスリップしたかのように書かれおり、一話読み終わるごとに登場した絵画を画像検索で見るのが至福の時間になります。
これらの話は全て、そばで美の巨匠たちを見てきた女性たちが語る形式をとっていますが、その語りの文体が優しく繊細、そして美しく、蝉がせわしなく鳴く猛暑であるのに、清涼感すら感じさせる魅力を秘めています。いつもカバンに入れて持ち歩きたくなるような、そんな本です。
個人的には一話目に登場するマティスを扱った「うつくしい墓」がお気に入りです。マティスの仕事部屋の描写はとても美しく、
頭を下げているあじさいは、赤と紫の花びらがバランスよく重なるように、その茎が必要以上に湾曲しない高さの花瓶が選ばれている。テーブルの上の本は、真ん中よりも少し後ろのページが開けられている。惜しみながら読み進んでいる、読書する人の熱中ぶりが伝わってくるように。もう一冊の本は閉じられ、まもなく開かれる瞬間を待っているようです。グラスの中の水は、かたわらの小瓶の「evian」の文字にかかるくらいの高さで静まり返っています。銀のレターオープナーの先は、広げた本のちょうど右下の角を正確に指している。水の入ったグラスを、その刃にさかさまに映して
ただそこにおいてあるだけのように見えるこれらのものは、そこにある理由が明確にあり、掃除をするお側仕えは大変です。ですが、これらの拘りが規則正しく、おだやかで心地よい日常を生み出します。ふと自らのオフィスまわりを見渡し、断捨離しようと思った次第です。
そんなマティスが晩年に4年もの歳月を費やして手掛けたヴァンスのロザリオ礼拝堂。作中で、マリアが新聞社の取材員にこう語ります。
アドモアゼル、あなた、いままでにヴァンスのロザリオ礼拝堂へいらしたことはある? あら、ないんですのね。だったら、人生の「楽しみの箱」がひとつ、まだ開けられずに残っているようなものよ
これまで行ったことはもちろん、見たこともない私は、ネットで検索。その予想と全く違ったきれいな空間に魅せられてしましました。いつか行ってみたいなと。
▼ヴァンスのロザリオ礼拝堂