内容紹介
絶対的な闇、圧倒的な光。「運命」に翻弄される4人の男女、物語は、いま極限まで加速する。米紙WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)年間ベスト10小説、アメリカ・デイヴィッド・グーディス賞を日本人で初受賞、いま世界で注目を集める作家の、待望の最新作!謎のカルト教団と革命の予感。4人の男女の「運命」が重なり合い、この国を根底から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。著者最長にして圧倒的最高傑作。ついに刊行。
またあの脳科学の話がでてきた
最近何かと忙しい上にAmazonプライムビデオにもハマりつつあり、読書時間が減っているなか、話題の教団Xをようやく読み終わりました。Amazonのレビューは散々ですが・・・
読み始めると、教祖の奇妙な話の中でまた脳科学のあの話がでてきました。
どんな話かと言うと、人間の身体は全て化学的物質で構成されているので脳の神経細胞だって同じ。その活動は化学的反応で起こっている。つまり化学的反応から意識だって生まれているということ。ベンジャミン・リベットという科学者による実験では意志を起こすよりも先に、脳の神経回路がすでに反応しているといわれています。
つまり「水が飲みたい」と思ったのなら、その前に脳が水を欲する反応を示しているということです。意識は単に脳の動きをなぞっているだけ。「飲みたい」と思った欲求を意識の力で我慢することができるじゃないかと考えてしまいますが、その我慢ですらその数秒先に脳が動いた結果だということ。意識は決して主体ではなく、脳に何らかの因果作用を働きかけることはできないという話。
簡単には理解しにくい話ですが、意識により他人の行動を変えることができないのに、自分自身だけは変えられると考えているのはただの錯覚なのかもしれません。
ただこの手の話は、様々な本の中で頻繁にでてきます。もう流行りですよ。この学説は当然仮説に過ぎませんが、「もしかしたら私達の意識は何も決めていないのかもしれない」というのが、多くの方にとって魅力的なんでしょうね。「過去の過ち」も「受け入れがたい他人の言動」も私たちの意識では影響を及ぼすことができない脳の化学反応に過ぎないわけですからね。この説はもう麻薬に近いんじゃないかと思います。
この本は女性にはウケが悪いだろうな
脳科学の話だけではなく、宇宙、仏教、靖国問題、右傾化、テロ、貧困国の真実など「信じるか信じないかはアナタ次第です」という話が小説中にかなりのボリュームで散りばめられています。私は知的好奇心が満たされて楽しめますが、妻にその話をすると死んだ魚のような目になってきます。この手の話は女性より男性の方に好まれるのかな。
さらにかなり過激な性描写が続きます。きっと腹を立てる女性は多いと思いますよ。「バカにするなと」
詰め込んだ割には奇跡的にまとまっている
あとがきに著者は「こういう小説を書くことが、ずっと目標の一つだった。これは現時点での、僕の全てです。」と書いています。本当にそうだろうなと感じる小説でした。
脳科学の話も過激な性描写もすべて、「人生っていうのは比べるものじゃない。どんな人生も価値の上では等しい。生きることはそれぞれの上に立った独自のあなたの時間を最後まで生き切ること。どんな人生でも、それがもし満足いくものでなかったとしても、それを最後まで生き切ったあなたは格好いい」ということを際立たせるためにあったのかもしれません。
それにしても、1冊によくここまで詰め込んだものだと感心します。それをまとめきった筆力には脱帽です。