[書籍] スクラップ・アンド・ビルド 羽田 圭介 (著)

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内容紹介
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。

芥川賞受賞によるメディア露出で、「昔の友達とは会っても昔話しかしないから何も生まれず意味が無い」「結婚した女友達に会っても意味がない」と合理的ではない事は意味が無いからやらないと言い切ってしまう独特なキャラの羽田圭介さん。

そんな著者はどんな話を書くのだろうか、芥川賞を取った作品なのできっとキャラとのギャップを存分に楽しめるのだろうと読んでみましたが、そんなことはありませんでしたね。介護という重い話になりがちな題材ですが、独特の角度から物事を捉えるキャラとうまくリンクした内容にニヤつきながら読みました。

主人公は孫の健斗。その視点で話は進行します。同居中の祖父は長崎弁で「早う迎えに来てほしか」が口癖で、居候の身をわきまえて生活しています。その姿に対して「そこにいないように振る舞う祖父を辛気くさい」とか「祖父のハリボテの奥ゆかしさに鼻白む」と健斗は上から目線で見ています。自分だって無職で中途採用面接に落ちてばかりいるくせにです。

そして、ある日「祖父の死にたいというぼやきを、言葉どおりに理解する真摯な態度が欠けていた」と思い至り、ある計画を思いつきます。その計画とは「祖父の身の回りの世話を積極的にする

使わない能力は衰えるので、本当の孝行孫たる自分は祖父が社会復帰するための訓練機会をしらみ潰しに奪って、「早くあの世に行きたい」という望みを叶えてやろうというわけです。

なんとも羽田さんが思いつきそうなユーモアあふれる話です。きっと介護業界をしっかりとリサーチして、真面目に考えたら思いついたんだろうなと想像すると笑けてきます。

ただ、笑いばかりではありません。

予定より早く帰宅した健斗が、家の中でも杖をつきながら歩く祖父しかいないはずの家で、俊敏な動きで移動する気配を感じたり、冷凍ピザを温めて食べた形跡を発見するシーン。

そして、祖父が「じいちゃんが死んだらどげんするとね」と健斗に尋ねるシーン。この2つのシーンから介護される側のリアルな思いが垣間見えた気がします。

健斗から見ると、心身ともに弱ってパイプベッドに横になってばかりいる祖父は自分よりもずっと弱い人間に見えてしまうでしょうが、祖父にも若さ溢れる時代が当然あったわけで、年老いたからと言って、それまでの人格が消えてなくなるわけでは無いということ。

介護してくれる家族に申し訳ないと思うからこそ、普段は介護される立場をわきまえた振る舞いをして「早く死にたい」と口にするのだろうし、介護されながらも、中途採用面接に落ちて、なかなか再就職できない孫が心配でならないわけです。

就職が決まった孫を送り出すラストシーンでは、祖父の孫を愛して止まない気持ちが伝わりジーンときました。

介護する者と介護される者。その日常の姿をリアルにあぶり出し、読者に想像させる。正直うまいなーと思いました。

もしかしたら、編集者に内容を削られただけかもしれませんが・・・

120ページとコンパクトにまとめられていますので、あっという間に読み終わります。本が苦手な方でも読みやすいですよ。

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