真贋など、どうでもいい。何故偽書が作られたのか。重要なのはそれだけだ。
奇怪な祭祀「鬼哭念仏」に秘められた巧緻なトリック。都市に隠された「記号」の狭間に浮上する意外な真相。門外不出の超古代史文書に導かれた連続殺人――。氷の美貌と怜悧な頭脳をもつ異端の民俗学者・蓮丈那智が快刀乱麻を断つ。単行本未収録の二編に、幻のプロットに基づく書下しなど新作四編を加えた民俗学ミステリー。
予想外の新作発売
異端の民俗学者、蓮丈那智シリーズ5作目です。北森鴻ファンなら5作目が読める喜びがどれほど大きいかは分かっていただけると思います。
と言いますのも、著者の北森鴻は蓮杖那智シリーズ4作目となった初の長編作品「邪馬台」を執筆中(2010年1月)に48歳という若さで急逝しました。
身内以外の死をこんなに悔やんだことはありません。
その時、「邪馬台」を書き継ぎ完成させたのが北森鴻の公私にわたるパートナー浅野里沙子さんでした。
「邪馬台」が単行本化されたとき、これで北森鴻の新作は二度と読めないのかと惜しむようにページをめくったのを覚えています。
それなのに、予想もしていなかった5作目が発売されたのです。
実は北森氏が亡くなる前に「小説新潮」に蓮杖那智シリーズの短編が二編書かれていました。
さらにドラマ化の為に北森氏が書いていたプロット「天鬼声」がある。
この3作品に浅野氏が新たに短編を3編書くことで単行本化に十分な分量となり、新作発売となったわけです。
あとがきの中で浅野氏は
北森鴻の思考とはなんぞや? それには始まりそれに終わる。ともかく自分の思考方法ではなく、北森式の考え方。それを見つめ、反映させることに腐心したのですが、上手くいっているかどうか、本心を言えば、はなはだ心もとない部分があります。
このように書いています。
かなり大変な仕事だったことが分かります。しかし、その完成度は高く、しっかりと北森ワールドを作り上げていました。
特に、4編目の補陀落では私の故郷宮崎県が舞台となっており、「補陀落渡海」に絡んだミステリーを堪能しました。
■さいごに
個人的には浅野氏には蓮杖那智シリーズだけではなく、香菜里屋シリーズや冬狐堂・宇佐見陶子シリーズの続編も書きつないで欲しいというのが本音です。
ただ、あとがきを読むとどうやら今作品が北森鴻の最後の作品になりそうです。
どうぞ「北森鴻」というミステリー作家を忘れないでください。そして時々本を取り出して、その多彩な作品をお読みください。独特な世界に連れて行ってくれるでしょう。北森鴻は、いつもあなたのそばにいます。
なんか感傷的になってしまいます。今後何度も読み返しますし、もちろん忘れることはありません。